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足一「終わりの踊り」
終わりの踊り
登場人物 男
―――――――
創作メモ
このかつおの遊び場で、「祭!」ということをやったこと、例えそれが誰に響いたとしても、また響いてなかったとしても、私個人としての想いを、この場所に刻み付ける。喜びも悲しみも懺悔も、とても個人的なものだということを背負いながら、それでも見せる/見せ付けるものとして、また、その見せ付けたものへの反応を背負うことを決め、行う、終わりの儀式である。
個人的な儀式ではあるが、この儀式では観客を含めることを前提条件としており、観客、技術スタッフも含め、すべてを共犯関係へと誘導する。
つまり、あなた(このパフォーマンスが行われる空間すべてを含む)の存在がこの儀式にとって必要となる。その際、パフォーマーとその他の人間・音楽・照明・外部から流れてくる環境音、すべてに上下はなく、すべてが必要となる。それは、行われる瞬間、「この瞬間」にあるものがすべてだからである。
――――――――
「「」」は録音音声を示す。
▼は言葉には発さない。
突然の暗転、客席はざわついている
明転
何もない舞台
男、客席の方から舞台へ上る。観客なのかもしれない
音声が流れる
「「ここ、はかつおの遊び場です。大阪府大阪市中央区宗右衛門町4-5、
宗右衛門センタービル2F、かつおの遊び場です。この場所はライブハウスです。」」
男、イスに座っている。
「「いま、この瞬間、この場所でこの明かりをつけてくれているのは、このライブハウスのマスター、芳田かつおです。拍手」」
男、拍手している。
「「このマスターが作ったこの場所で、色んなひとがこの舞台にあがりました」」
男、静かにストレッチを始める
「「色んなライブハウスにでて、それだけで生きているひとから、この場所で初めて人前に立つひとから、色々です。それだけの歴史をこの場所は刻んできました」」
男、深呼吸をする
「「そこで、始まったひとつの歴史が、またここで終わるというのは、とても
綺麗なものだと、思います」」
「「それでは
男、礼をする
男・音声 終わらさせて頂きます
音楽
男、踊る
▼ここにおいて、僕の存在は誰に知られなくてもいい。ただ、この空間の持つ歴史性にほんのひとつ、かすかなひずみを入れたいだけだ。だから、この体、指先の、小指のほんの先とか、あばらのひとつとか、内臓の端の端を使って、今ある全部を使って、この空間の歴史に少しだけ切れ目を入れる。草で指を切ったときのような、後から開いてくるひずみを、期待と希望をこめて、今もっているものを全部ぶつけて、この空間に、少しだけ。
男、床に倒れる
音楽、ゆっくりと、長いフェード
男 机、イス、照明。この全部が全部、当たり前だけど、歴史を持ってます。この下にひかれた敷物。ぼくの友人が赤いペンキをこぼしたので、ひいてあります。更に違う友人は、この場所で持ってきたイスに乗って、それが壊れたりしました。その思い出には良いとか悪いとかはなくて、でもそのことは、かつおさんは覚えているかもしれません。そして、それは覚えていなかったとしても、この空間には染みのように染み付いてると思います。
男、立ち上がる
男 いま、話したことは、あなたとあなたとあなたとあなたの記憶に、少しだけ残ります。一日、さらに一日、もう一日たったら、この記憶は消えてしますかもしれません。消えなくても、どんどん風化していきます。それは、
「「そういうものです」」
男、動き始める
▼それについて、悲しく思うのは、ぼくだけじゃないと思う。でも、そのことについて、「悲しく思う」と言葉でいうのは、なんだかとてもうそ臭い。穴のあいた風船のようにそこから真実がどんどんどんどん、すごい勢いで抜けていくような気がして、ぼくはその方が耐え切れなくて、とても悲しくなる。だから、ぼくは踊るのだろうか。言葉にできないから。
男、息を止める
出来るだけ長い間とめて、それが弾けて、言葉を発する
それは、客席にいる、あなたに話している
男、話しながら、空間に対して体を動かす。発している言葉を、ひとつひとつ貼り付けていく
男 あなたは、どうしてここにいるのですか? 誰かのためですか、なにかのためですか、自分のためですか。
あなたがいるその、イスの上の空間、そこにあなたがいるから、いまここは成立しています。あなたがそこに立っているから、この空間は成り立っています。
あなたがどんな偶然な理由でここに存在していたとしても、いまこの瞬間、2016年12月13日のこの時間このコンマの瞬間にあなたがいてこの舞台とかつおの遊び場が完成されています。あなたがこの場所にいるのは、必然です。
あなたがそこにいることが、この場所で何かが起こる理由です。ここで、ギターを弾いたり、歌ったり、手品をしたり、声を出したり、踊ったり。たとえ、すごく楽器の上手なひとが、踊りの上手なひとが、演技の上手なひとが、ひとりでこの場所で誰も知らない時間に何かを披露しても、それは存在しません。森の中で木が倒れても、それに気付かなければ、木は倒れたことにはなりません。でも、あなたは今倒れそうな木に、気付いてしまった。
男、目を閉じ、ゆっくりと動く
男 今、この瞬間に何が聞こえますか。道頓堀川の川岸を歩く人の声ですか。ぼくの話す声のほかに、近くのひとの呼吸のおとは聞こえますか。
間
「「いま、ぼくは話していませんが、話しているように聞こえますか。この音声は2016年12月12日に録られたもので、加工をしなければ、それは変わりようがありません。でも、」」
男 いま話していることは、この瞬間が過ぎれば消えてしまいます。あなたは、この木が徐々に倒れかけていることに、気がついていますか。
この場所にいるということは、あなたに何かを伝えたいからかもしれません。
「「でも、ぼくは言葉というものを信じきることができません。嘘は本当に聞こえるし、本当は嘘に聞こえるからです」」
録音された音声も、いまこの瞬間に見つけられて発せられた言葉も、台本という形で作られた言葉も、どれも信じられるし、どれも信じることができない。この場所での本当がわからないから。
言葉よりも、ぼくがあなたに真摯に向き合う手段として、体を使います。
音楽
男、動く
▼あなたに伝えたいことなんて本当はないかもしれない。伝えたいことはない、この瞬間のこの今、それでもぼくの視界のなかにはぼくのことを見る瞳があって、そのあなたにやっぱり、(口には出せなくても)伝えたいことがある。あなたにワクワクするものを見て欲しい。意味がわからなくても、言葉にできなくも、鳥肌がたったり、心臓が締め付けられたりするものを見て欲しい。そして、それはぼくというものではなくて、この、かつおの遊び場という空間に存在した、そしてこれからもこの空間に生まれ、入れ替わり、そして存在し続けるということを覚えておいてほしい。この空間に染み付いた、嬉しさ・悲しさ・辛さ、そんなものを知らなくても、想像してほしいと思う。ぼくがしたように。
男、動き続ける
男 今、この場所で動いた、それを言葉で説明しようと、言葉で話すと、それはどうしてもずれてしまう。あなたの感覚が言葉という枠で収まるはずがないからだから、この瞬間の出来事は誰にも伝えられなくて、誰にも伝える必要がない、あなたしか知らないあなただけの現実です。
男、止まる
男 色んなめぐり合わせで、この場所で何度も舞台に立たさせて頂きました。2012年から始まった祭!の、いってしまえば終わりの始まりの合図として、この舞台に立ってます。ぼくの、この先の舞台に立つ予定はありません。その意味でも、終わりの踊り、させて頂きます。あなたが今日見た現実で、いまから、そしてこれから、もっとワクワクしていってください。
音楽
音楽、大きくなって暗転
舞台上は誰もいない。客席に男が座っている。
今まで再生された音声と再生されてない音声が同時にかかる。